包丁を研ぐには包丁の構造を知らなければならない
さて、料理をする上で、特に和食ともなれば、包丁は切っても切れない存在であります・・・包丁なのにね・・・・・っよ。
包丁は当然、使っていくうちに切れ味が落ちていきます。
最近ではステンレスの長く切れる包丁なんかも出回り出しましたが、たとえどんなに良い包丁を買ったとしても、仕事で使う方ならば2日も使えば切れ味は落ちることでしょう。
そこで我々料理人は包丁を研ぐわけですが、どうゆうわけか、包丁を上手に研げない料理人が多く存在します。
外食した際に、目の前の板前の包丁を見てガッカリする事もしばしばです。
変な形をしていたり、シノギ筋の丸まった研ぎ方をしていたり、最悪錆びた包丁を使っていたり、和食屋なのに洋包丁を使っていたり・・・・・とまぁ、悪い例を上げていけばキリがないのですが、そもそも包丁とはどんな形が理想的なのでしょうか?
変な包丁使ってるなと思う料理人に聞きますと、『僕はこうゆう形にしています』だとか『僕はこの形が好きです』だとか『あえてこう砥いでます』だとか・・・・
はっきり言いますがこれ、全て間違いです。
包丁の正しい形というのはね、きちんとした包丁屋さんが作って売りに出す最初の形が正しい形なんです。
包丁のプロが考えて考えて出来上がったその形を、変えずに使っていくって事が包丁の正しい研ぎ方って事です。
自分はこの形が・・・・なんてキチンと包丁を研げない料理人の言い訳でしかありません。さて、この事を念頭に包丁を見てみましょうか。
かなり長い説明になりますので、何日かに分けて読む事をおすすめします。
包丁の構造
包丁を研ぐにはまず包丁の構造を理解しなきゃなりません。
細かく見ていくとキリがありませんので、これだけは絶対に覚えておいてってポイントだけ見ていきましょう。
まずは峰(ミネ)について知りましょう。
包丁の峰とは包丁の背中側の事です。極端に書きましたが、写真の青線で書いたように包丁の峰は切っ先(包丁の先端)に向かって細くなっていきます。
先に向かって細くなっていくという事は、包丁は切っ先に向かって段々と薄くなっていくという事でもあります。
あまり考えた事が無いかもしれませんがこれは和包丁の使い方に大きく関係しています。
和包丁は基本的に包丁を引いて物を切ります。刺身を切る時を想像してもらえれば、刃の顎(包丁の柄に近い部分)から切り始め、切っ先に向けて包丁を引きます。
つまり、峰の構造が切っ先に向けて薄くなっていく事で包丁の抜けが良くなるという事です。
これが包丁の構造を知る上での第一歩です。
では次に表から包丁を見てみましょう。
しのぎ筋と切刃
和包丁は写真のような構造をしております。青色の線がしのぎ筋と呼ばれる部分です。
実際に物を切るのは黄色の線を書いた刃先の部分です。
しのぎ筋と刃先の間の角度のついている部分全体を切刃と呼びます。
さて、多くの人は包丁を研ぐ時に黄色線の部分を意識して研ぎます。実際に食材に切り込む所ですからね。
しかしこれが包丁の形が崩れる大きな原因です。
詳しく説明しますね。
写真のように包丁の切刃は、しのぎ筋から刃先に向かって伸びております。
黄色の線が包丁の先端に向かって段々と長くなっているのが解りますでしょうか。写真では解りづらいので、実際に包丁を手に取って欲しいのですが、線が長くなるという事は、角度が浅くなっていくという事です。
これは先ほどの、包丁の先端に向かって峰が薄くなっていく話と繋がっておりまして、包丁の表でも、切刃の角度を浅くする事によって先端に向かって刃が薄くなっているという事です。
その方が食材を切った時に抜けが良くなりますからね。
つまり包丁は峰の構造と切刃の構造、どちらも包丁の抜けを考えて作られていると言えます。
切刃はシノギ筋から始まります。よってシノギ筋の形が切刃や刃先の形を決めます。
よって包丁を研ぐ時は青線のシノギ筋の形を意識して研ぐという事がとても大切です。
切っ先のソリについて
さて、包丁の構造について考える上で最も重要なことが有ります。先ほどの黄色で書いた線の角度が変わる写真(切刃の角度)とも関係してくるのですが、包丁の切っ先はなだらかに反っております。
写真のピンクの部分ですね。
この反り返った構造のために切刃に角度が付き抜けが良くなり、食材を断ち切る事ができるわけです。
やってみれば解りますが、フグなどの硬い白身を薄く切る際にはこのソリを上手く使わなきゃ刺身は綺麗に切れません。
包丁を効かせるって事はソリを上手く使うって事とほぼ同義です。(厳密には上手く円運動をさせるわけですがそれはまた後日まとめます。)
ソリはシノギ筋にもうっすらと付いているため、包丁を研ぐ際はこのソリを意識しながらシノギ筋を作っていくという事になります。
タコ引きという直線の構造をした刺身包丁も存在しますが、ソリが全く無い包丁は構造としては柳刃に劣りますんで、最近はソリのついたタコ引きが主流ですしね。
さてここまで書いた包丁の構造を理解した上で、いよいよ包丁を研ぐ下地が出来たと言えます。
では研いでみましょう。
包丁の研ぎ方
これは私が実際に使っている砥石です。簡単に説明しますが、主に使うのは3種類。
一番左は荒砥と呼ばれる物でして、大体600番くらいのものです。これは包丁がかけた時や大きく形を直す時に使うものですんで、年に一度使うかどうかです。
その左から2番目は2000番、5000番、8000番となりまして、主に使うのはこの3種類です。
使う頻度としましては、もちろんそれぞれ仕事の量に影響されますが、私は基本的には5000番は毎日当てております。
そして週に1回2000番でしっかりと刃を出してやるという感じです。
8000番に関してはもはや体力と相談してと言ったところでしょうか。5000番を当てた後に余力があれば当てております。
ちなみにですが砥石は良く濡らしてから使いましょう。私は水に5分程つけてから使っております。
では、包丁の研ぎ方です
研ぎの基本
指を当てた裏面が研げる。
まず大前提として、砥石に包丁を当てる際は包丁を砥石に押し付けるように指で抑えます。そして、基本的には指で押さえた真裏が研げます。指で押さえながら包丁を上下に動かす事で包丁が研げます。
指1本で抑えれば指1本分研げますし、3本で抑えれば3本分研げます。
稀に親指と人差し指で包丁を押さえて研ぐ人や、水を流しながら研ぐ人がいますが、どちらも間違った研ぎ方です。
シノギ筋を研ぎたければシノギ筋の裏を押さえますし、刃先を研ぎたければ刃ギリギリを押さえます。
つまり写真の様に刃先とシノギ筋を研ぐ時は包丁の抑える場所が変わるという事です。
切っ先付近と刃元付近の研ぎ方の違い
先ずはシノギ筋を作っていくわけですが、先ほど書いた通り、切っ先付近には包丁のソリが存在します。
ですので切っ先付近と刃元付近では研ぎ方が変わるという事です。これを考えずに研ぐとやがてソリの形の崩れた包丁になってしまいます。
切っ先付近はゆるい円を描く様に研ぎ、刃元付近は直線的に研ぐ。
これはシノギ筋も刃先も同じです。写真で詳しく説明します。
写真のピンクで色を付けた部分の角度が緩く変化しているのが解りますでしょうか?
写真は切っ先付近のシノギ筋を作っている写真なのですが、包丁を大きな円を描く様に動かします。そうする事で包丁になだらかなソリが入るわけです。
逆に小さな円を描く様に細かく包丁を動かせば、エッジの効いたソリが入ります。
シノギ筋の裏を押さえたので、シノギ筋を研ぐことが出来ました。
包丁は研ぐことで傷が入りますので、最初のうちはちゃんと自分の狙った所が研げているのか、その都度確認することをお勧めします。
では刃元付近はどう研ぐのか。刃元付近は直線的な構造をしております。
勘の良い方は察しがついていると思いまが、
写真の様に角度を変えずに上下に包丁を動かします。
シノギ筋が出来たら切刃の真ん中あたりを研ぎ、最後に刃先を研ぎます。その後刃先ギリギリに指をあて、包丁の表を作ります。ちょっと怖いかもしれませんが、このくらいギリギリに指を当てます。
どの工程でもソリと直線、包丁の構造をしっかりと意識しながら研いでみてください。
さて、これで包丁の表を研ぐことができました。
次に包丁の裏を研がなくてはなりません。
包丁の裏の研ぎ方
包丁の裏というのは真ん中が凹んでおります。この凹みによって食材がくっつかないというメリットがあります。
さらに、大体の包丁は霞と言いまして、包丁の裏に鋼がついております。(本焼き包丁などの特殊な包丁もあるのですがこの話は後日別記事にて)
当然ながら包丁は研ぐと減っていくのですが、裏に硬い鋼が付いておりますので、包丁は裏を多く残した方が、長く使えるという事になります。
つまりは包丁は表で形を決めて、裏でパリッとした刃を作るという事です。
私は表9裏1の割合で研いでおります。
裏は刃先だけを研げば良いので砥石にビタッと当てまして刃ギリギリに指を当てます。
こうして裏全体を大体2往復くらい研いだら研ぎ完了です。
後はクレンザーやコンパウンドなどを使って包丁を磨けば完成です。
パリッとした包丁で食材を切ると料理はより楽しくなりますよ。
写真の包丁はかれこれ7年近く使っております。だいぶ短くなりましたので、仕込みでも使っており、若干の刃こぼれも見えますね。柳刃の構造上、短くなるにつれ切っ先はどんどん上に反ってしまいますが、まぁ、包丁として綺麗に使えているのではないでしょうか。
この他糸切り刃や蛤刃、丸っ刃や鶴首(コンコルド)など包丁に付いて話し出したらキリが無いのですが、終わりが見えませんので今回はこの辺で。
質問など気軽にお問い合わせください。
時間に余裕があれば記事にまとめてみたいと思いますので。
ではでは皆様御機嫌よう。
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